イヤホン直列が良く聞こえる

クリスタルイヤホン ⇒ 実はセラミックイヤホン
(静電容量が大きい)

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傘ラジオに用いるクリスタルイヤホンは、形こそ昔と同じですが、中身が変わっています。昔のクリスタルイヤホンは、ロッシェル塩の結晶を用いていましたが、現在のものはセラミックの圧電素子を用いています。正確にはセラミックイヤホンです。

この違いはインピーダンスに現れていて昔のロッシェル塩タイプは静電容量がセラミックタイプに比べて随分小さいのです。セラミックタイプは数十[nF]位の静電容量を持ちますが、ロッシェル塩タイプの場合は数百〜数千[pF]と小さいのです。私が子供の頃作ったラジオ(Homer 1T50)に付属していたものは、YHP4194で測ってみたところ、1[kHz]で290[pF]程度でした。ただしこれは音も小さくなっており、かなり劣化した状態ですので、新品でどのような値だったかは不明です。

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左の写真は現在入手できるセラミックタイプのイヤホン特性です。1[kHz]で17[nF]、つまり0.017[μF]であることが分かります。抵抗と容量の直列接続の回路定数として表示しています。

これだけ値が違いますので周辺回路が昔の回路定数のままではいけないと考えています。傘ラジオは同調回路の回路定数が市販のラジオ用の部品とは異なっています。実はこれがいくらか有利に働いていると考えていますが、この点はまた別の機会に述べます。

いくらか有利とは言え、決して十分な状態ではないと考えています。まだセラミックイヤホンの容量が大きすぎる状態です。そこで、静電容量の値を下げるために、イヤホンを直列につなぐ方法を紹介します。この方法が有効であることは、メロディカードのセラミック振動子を取り出してイヤホン代わりに使う(2005年7月)の最後のところで触れています。

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まずこれがイヤホンを1個用いた通常の傘ラジオの状態です。

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それを、回路的にはこのような状態にするわけです。イヤホンを二つ使いますがあくまでもモノラルです。二人で聞いても構いませんし、両耳に入れて使ってもいいのです。両耳をふさぐことで外からの雑音を遮断するので、その効果もあって良く聞こえます。2つのイヤホンを同相で駆動することで音が頭の中で聞こえるようになります。耳と耳の間に定位するからです。

その同相を得るのにみのむしクリップの色を使えば良さそうに思いますが、やってみると困ったことにイヤホンによって極性がいい加減なのです。これは聞きながらやるしかないようです。

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これが2つのイヤホンを直列につないだ状態です。ここで用いたイヤホンは、同相に聞こえるクリップの色は互いに逆になっていました。

二つ直列にしたら、電圧が分圧されて音が小さくなるように思えますが、やってみるとそうではありません。音は小さくはならないのです。

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調子に乗って三つ直列にしてみましょう。幾分小さいかなという感じもしますが、あまり変わらない様にも思えます。

実は、この実験のようにイヤホンを沢山集めて実験をすると、イヤホン個々のバラツキが結構あることがわかります。

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直列接続でも音が小さくならなかった理由を示します。セラミックイヤホンをつないだ状態では、包絡線検波の回路定数が最適にはなっていません。傘ラジオでは放電用の抵抗を設けていません、その代わりゲルマニウムダイオードの逆方向電流を利用します。これが大変小さい電流なので、放電の下降の傾きが緩やかになり、左図の上の波形ようなダイアゴナルクリッピング歪が生じます。このため復調された音声信号は小さくなっているのです。

クリスタルイヤホンを2個直列にしますとトータルの静電容量は半分になります。これにより放電の下降の傾きが急になり、復調後の電圧は大きくなります。大きくなった電圧を分圧するので、イヤホン1個に掛かる電圧はさほど変わりません。このためイヤホン1個の音量が変わらないのです。その音を二つ聞くことになるので、全体としては大きく聞こえるわけです。

傘ラジオでは検波回路に放電用の抵抗を入れないで、ダイオードの逆方向電流を出来るだけ利用したいと考えています。ダイオードの逆方向電流は順方向の立上り電圧と関係していて、順方向電圧が小さい場合、それに見合った逆方向電流が流れます。ですからこれは切り離せません。切り離せない以上、積極的に使いたいと考えています。かといって現状で静電容量の小さいイヤホンを入手することはできないので、今は次のような方法を考えています。

イヤホンの静電容量はここで示したように直列接続で小さくします。ある程度の個数を直列にし、その直列にしたイヤホンからの音を音響的に集めて重ね合わせます。そのような改造型イヤホンを作ってみようと思います。音を導く管を工夫したら音がよくならないか?などいろいろ挑戦してみるつもりです。(2011年3月)