コンデンサ型アンテナによる電界検知式ゲルマラジオ

傘ラジオは、日用品で大きなループアンテナを手軽に作れないか、ということの試行錯誤から生まれました。 小型高性能のハイテク製品に囲まれている我々には邪魔なくらい大きなアンテナですが、中波の波長に比べれば非常に小さいサイズと見なされ、微小ループアンテナであると考えられます。そして、ループアンテナなので電波の磁界を検知します。

それならば、微小ダイポールで電界を検知するゲルマラジオがあっても良いのではないか、という事で始めた実験がここに紹介する「コンデンサ型アンテナによる電界検知式ゲルマラジオ」です。



その昔、中波放送受信の標準的なアンテナはとても大きな逆L型アンテナでした。このアンテナの形状と等価回路は、傘ラジオ製作資料のページ21に載せてあります。これはダイポールアンテナの上半分を利用したモノポールアンテナの一種で、大地と平行な部分は頂部容量負荷となっています。ダイポールの下半分は大地の中にイメージとして存在します。
中波放送のラジオでこのアンテナを見る事はなくなりましたが、ダイポールアンテナやその変形であるモノポールアンテナは携帯電話やテレビ、FMラジオなど我々の身近にある電波利用機器のアンテナとして活躍しています。

このようにゲルマラジオにおいてもダイポールは珍しくはなかったのですが、ここでは微小ダイポールという事で、もう少し教育的な狙いも含めたアプローチをしてみたいと思います。工学の世界では「微小」という言葉がつくと、モデルが簡単になったり数式が簡単になったりします。そして複雑なものも微小の集まりとして考える事がよく行われます。
このラジオの製作のゴールには、「電界を微小な距離だけ積分すると電圧が得られる事の学習」を置きたいと考えています。(今回は動作確認までの報告です。学習の部分は別のセクションで紹介する予定です。)積分に驚く必要はありません。距離が微小だと電界と距離の掛け算で済みます。このラジオはそういう話のネタとして考えたものです。

傘ラジオと同程度の開放電圧を検討

電界をどのくらいの距離だけ積分すれば傘ラジオと同じ開放電圧が得られるのでしょう。最初にこれを計算してみます。
このためには傘ループアンテナの実効長を求めます。

計算に用いる傘ループアンテナのサイズは左の図において、rmax=0.41[m], rmin=0.235[m]としました。巻き数nは12回です。この場合、ループアンテナの面積は、巻き数を考慮してnA=3.617[u](一辺1.9[m]の正方形ループ1回巻き相当)となります。

ループアンテナの位置における電波の磁束密度をB[T]とすると、ループアンテナに鎖交する磁束Φ[Wb]は Φ=nAB です。従って、ループアンテナに誘起される開放電圧v[V]は v=jωΦ=j2πfnAB となります。

ところで、送信所の遠方の空間を伝搬する電波においては、その電波の電界E[V/m]と磁束密度B[T]の大きさに E=cB の関係があります。ここでc[m/s]は光速(3×10^8[m/s])です。上の式のBをE/cに置き換えてみましょう。 ループアンテナに誘起される開放電圧v[V]と電界強度の関係式が得られます。
それは v=j2πfnAE/c となります。

波長λ[m]=f/cの関係がありますので、更に v=j(2πnA/λ)・E と書き直す事が出来ます。 この(2πnA/λ)の部分の単位は[m]で、電界との積をとると電圧になる量です。これが微小ループアンテナの実効長leです。

さきほどの傘ラジオの形状で実効長を計算すると、左の表のようになります。(クリックすると鮮明になります。)
驚いた事に、傘ラジオの実効長はNHK第一で4[cm]、本校で良く聞こえるAFNの周波数で6[cm]くらいでしかないのです。



つまり、電界の中の数センチメートルの間の電位差を検出すれば、傘ラジオと同じくらいの音が聞こえるはずなのです
傘ラジオでは同調コイルがループアンテナを兼用していましたので、この実験では同調用のコンデンサで電界を検知しようと考えました。同調用のコンデンサの二つの電極を数センチメートル離して配置し、電波の電界の中に置くのです。電極間距離が波長に比べ極めて小さいので、波長のスケールから見ればこの電極は点のようなものです。つまり、微小ダイポールになっています。
もちろん、傘ラジオと同じ音量にするには、開放電圧の他、インダクタンスを含めた共振系としてのQも同程度にする必要があります。ゲルマラジオとして使用している状態では共振電流が流れるため、コンデンサの両端には開放電圧のおよそQ倍の電圧が得られます。ゲルマラジオの善し悪しはこのQにかかっていると言っても過言ではありません。コイルのQの方が心配ですが、特殊な部品は使いたくないので、一般的な部品で動くかどうかと言うところです。これは実験してみるしかありません。


この実験では、電界検知を確認するため、コイル側は小さなものにする必要があります。このコイルで電波をキャッチしてしまっては意味がないからです。今回は手持ちのバーアンテナ330[μH]を使う事にしました。ここ八王子ではバーアンテナとバリコンではゲルマラジオを聞くことはできません。(だから傘ラジオを作るに至ったのです。)

コンデンサの電極間距離は先ほどの実効長が参考になります。これにバーアンテナのインダクタンスや受信周波数などの条件を入れて、コンデンサの電極面積を求めてみます。
NHK第1の場合1.1[u]、AFNで0.81[u]となります。けっこう大きな電極です。DIYショップに90[cm]×180[cm]のスチロールボードがありましたので、これを半分の90[cm]×90[cm]2枚に切り分け、アルミホイルを貼って電極にしました。


配線

配線は下の写真の通りです。(クリックすると大きくなります。) 傘ラジオ同様簡単なものです。
写真の中で、下の電極とコイルをつないでいるコードの色が赤と黄色で異なっていますが、これは途中で連結していますので同一の線です。
この状態でAFNが聞こえています。


横から見たところ

今回の実験はあくまでも動作確認なので、電極の間隔はスポンジや箱を挟んで調節します。
これはAFNにチューニングした状態です。電極間距離は平均で8.3[cm]になっています。 電界は理想的には大地に垂直のはずですが、大地は完全導体ではないので実際の電界は傾いていると言われます。 今回の実験は地表ではなく校舎の屋上で行っていますが、その傾きまでは試していません。これは別の機会にご報告したいと思います。


全体はこんな感じ

電極が90[cm]×90[cm]ですから、見た目にはかなり大きなものです。
無指向性であるところが傘ラジオと大きく異なります。
同じ場所で傘ラジオも聞いてみました。傘ラジオが最も良く聞こえる方角との比較では、傘ラジオの方が幾分音が大きいように感じました。


本当はバーアンテナで聞こえてんじゃないの?

と思う方もいらっしゃるのでは?
当の私がそう思いました。そこで確認実験をしました。

まず、今聞こえている放送を発振器(100円ラジオを改造したもの。変調がかかっている。)で妨害します。


次にコンデンサを普通のバリコンにつなぎ替えて、発振器の音に同調させます。


発振器を停止し、取り除いて、この状態で試聴します。
何も聞こえません。このことから、ここ八王子では、バーアンテナに誘起する電圧ではゲルマラジオを鳴らすことはできないという事が分かります。

念のため、バリコンの同調を前後に変えて見ます。それでも何も聞こえませんでした。
むしろ、この確認実験をやってみて初めて、電界検知アンテナでも本当に聞こえるのだなと実感できました。

あの8[cm]の距離の差に、ラジオが聞こえるような電圧が誘起されているのです。
これには傘ラジオとは違った驚きがあります。


TBSに同調してみる

NHKは電極間隔が小さくて音が小さかったので、周波数の高いTBSに合わせてみました。
電極間距離は平均で16[cm]になりました。


全体的にはこんな感じです。風が強いと凧のように飛ばされそうです。
電極の固定方法を真面目に考えないと、これ以上の実験はできないでしょう。

肝心の音量ですが、傘ラジオと同じか、少し大きいくらいに感じました。良い感じです。
いずれ、きちんと誘起電圧の測定を行う予定ですので、今回は感覚的なご報告で勘弁していただきたいと思います。その際は、「電界と磁界の両方を測定しよう」という内容にしたいと考えています。実は、このような簡単な装置でE=cBを確認できないか、というのが最もやってみたい事なのです。




横から見たところ

実は、よく見ると、地面に水平という訳ではありませんでした。


傘ループアンテナとのコラボレーション(微小ループと微小ダイポール)

磁界検知と電界検知の二つの方式でゲルマラジオを構成してみました。
まるでダイバーシティのような構造ですが、波長に比べ非常に小さなサイズのところでの話なので、そこまでの意味はありません。
アンテナが二つになっても、磁界からは微分で電圧が取り出され、電界からは距離の積で電圧が取り出されますので、単純な電圧の和にはなりません。(ベクトル的な和になります)
ですが、全く意味がないわけではなく、実験でもいくらかの向上が認められます。

左の状態は傘が傘ラジオとして最も良く聞こえる方向を向いている場合のセッティングです。 この傘ループアンテナはインダクタンスが約130[μH]ですので、コンデンサの電極間距離を短くして、TBSを受信するのがやっとでした。電極間距離は平均5.2[cm]となっています。



この状態は傘ラジオ単体としては感度が最も弱くなる方向ですが、この構成では心持ち音が小さくなったかな程度で、依然として良く聞こえています。



傘を上に向けると傘ラジオ単体では全く聞こえなくなりますが、この構成では影響がありません。上の場合と同じくらいの音量でした。




さて、このコンデンサ型電界検知アンテナですが、磁界検知のループアンテナとは使い勝手が随分違うようです。
校舎の中でも窓際で傘ラジオが聞こえる箇所があるのですが、このコンデンサ型電界検知アンテナでは聞こえませんでした。増幅器をつけても放送は聞こえません。ブーンという音が聞こえてくるだけです。信号を調べてみると何か放送以外の信号を拾っているようです。室内の蛍光灯の下でも雑音が聞こえてきます。

ループアンテナは誘導起電力が磁界の時間微分に比例するので低い周波数の信号は拾えません。これに対し、電界検知の場合は低い周波数の電界も電圧に変換します。原理的には静電界でも電圧が現れます。この点を理解した上で実験を実施しないと思い通りの結果は得られません。実験に先駆けて電磁的に静かな場所を探す必要があるのがこの実験の泣き所です。
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