Siダイオードに集光した場合と熱した場合

傘ラジオの検波ダイオードとして汎用Siダイオードを用いる


LED検波ラジオができるなら、普通のダイオード(1S1588や1S2076)はどうだろう?
ということで、外に出てやってみる事にしました。さすがにそのままでは無理ですから、ルーペでダイオードの接合部分に光を集めてやってみたのです。

光を当てるのが難しいですが、うまく当てればゲルマニウムダイオードと変わらないくらい良く聞こえます。


しかし、ダイオードの部分はこんな状態です。
つまり、紙を置いたら燃え出してしまうような状態なのです。

「光じゃなくて熱なのでは?」周囲で実験を見ていた人たちからそんな声が上がりました。


ならば、熱してみよう!
ライターでダイオードのリード線を熱してみます。

「おっ聞こえる?、たぶん同じくらい。」
ということは熱なのか。

いや、でも、電子工学科なんだから、ちゃんと調べなきゃ。 ということで、「家庭のTVで整流特性を観測」で紹介した、V−Iカーブトレーサを用いて測ってみることにしました。


室内の太陽光があたる場所に移動して、ルーペで集光します。

ダイオードは1S2076です。
これが、光を当てないとき。
横は一区画1V、縦は一区画0.1mA(100uA)です。 電流が小さいので、順方向立ち上がり電圧は0.4Vくらいですが、教科書通りのよく見かける特性図です。

次にこれが、光を当てたときです。

特性が縦軸に平行に下にずれています。 LEDに光を当てたときのV-I特性と同じ変化が見られます。
これは光電流を発生していることを示しています。

つまりこの場合は、光によって発生した電流でバイアスが掛かり、ラジオが聞こえたと結論できます。

それでは、熱を加えるとどうなるのでしょう?

これは、比較のため、熱が加えられていないときのV-I特性です。


上の写真のように、ダイオードのリード線にライターの炎を当てて熱します。
これは、熱し始めて間もない段階です。V-Iカーブは横軸に平行に左にずれていきます。 この写真は、まるで、ゲルマニウムダイオードのような特性です。

これならラジオが聞こえるのは当然でしょう。

更に熱し続けると、今度は縦軸に平行に下にずれますが、V-Iカーブは原点を通る曲線です。
原点を通るということは、V=0においてI=0ですので、光を当てたときのように電流が発生していると言う事実は認められません。

この状態は逆方向の飽和電流が大きい場合の曲線と同じです。
ダイオードをライターで熱した場合は、光を当てたときとは違うことが起きて、ラジオが聞こえたと結論できます。


ダイオードの電圧対電流特性は左図のような式で表されます。
ここで、Isは逆方向飽和電流とか、単に、逆方向電流、飽和電流と呼ばれるもので、十分大きな逆方向電圧を加えたときの電流値です。実際には、ツェナー降伏してしまうので、その手前の電圧を規定して電流値が示されます。
左図の式は、V=0ではexpの項が1になりますので、Isがどんな値であろうと、原点を通過するカーブになります。

これが、光を当てたときです。
矢印のような動きがあります。

V=0で電流が値を持っていますから、これは「ダイオードの端子をショートしても短絡電流が流れる」、ということを意味し、発電していることがわかります。

これが、ダイオードのリード線を熱したときです。
矢印のような動きがあります。

V=0ではI=0ですので、発電しているわけではなく、この場合は単に逆方向電流が増えたことを示しています。

ラジオに接続した実験では、熱しすぎるとラジオが聞こえなくなり、冷ます過程で再度聞こえる状態があります。これは、熱しすぎると、逆方向電流が大きくなりすぎ、V=0付近の特性が直線的、つまり抵抗のようになってしまうからです。そうなると検波できません。傘ラジオでは傘ループアンテナで受信した電圧を、増幅せずに検波しますから、ダイオードにかかる電圧が百mVオーダの値です。この付近の電圧で、V-Iカーブがクニャっと曲がっていなければ、AM波を検波することはできません。

ダイオードの電圧対電流の式はいろいろな本に掲載されていますが、逆方向飽和電流Isの内訳については、キャリア密度や拡散定数、拡散距離で表しているものがほとんどで、温度特性が読み取れるような形で書いてあるものは滅多にありません。
左の式は、電子物性を専門とする先生にお願いして、洋書から見つけてもらい引用しています。 ここで、EgはPN接合のエネルギー帯構造図におけるエネルギーギャップ(禁制帯幅)です。 本校図書館と私の手持ちの本の範囲では、1冊だけ、Egのexpの項を含めた式で書いているものがありました。それには、「SiのEgがGeより大きいのでSiはIsが小さい」と書いてあり、納得できます。
また、左の式では、その他にもIsが温度Tで大きくなる要因が示されていて、勉強になります。とにかく飽和電流Isは温度でガンガン増えちゃうぞ、と肝に銘じておきましょう。カットアンドトライで基板がまだ熱い内に通電しても意味が無いことが良くわかります。
回路設計をする際には、半導体の温度特性には泣かされます。その割には、あまり書かれていないので、別の意味で驚きです。


ところで、1S1588や1S2076のデータシートには、温度を変えたときのV-I特性の変化が示されています。
100℃を超えた曲線は、まるで常温のGeダイオードのようなのに、なぜ今まで気がつかなかったのだろう、と思いました。1S1588や1S2076のデータシートを見るときは、そもそも目的が違っているし、こんな高い温度にしないように使おうと思っているから、思いつかなかったのですね。頭、固くなってるなぁ〜。


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